日本大学理工学部 電子工学科 高橋研究室(半導体デバイス研究室)

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宇宙用半導体デバイスの研究

 宇宙空間は劣悪な放射線環境であり,人工衛星などで集積回路などの半導体デバイスを使用すると,放射線照射により発生した電荷により回路中に過渡電流が発生し,吸収線量増加に伴う電気的特性劣化(トータルドース効果)や,高エネルギー粒子線照射による一時的な回路誤動作(シングルイベント現象/ソフトエラー)が引き起こされます.シングルイベント現象は,OFF状態のMOSFET(トランジスタ)へ高エネルギー粒子線が照射されることにより瞬間的に大きな過渡電流が流れ(大量な電荷が収集され),出力電圧が変動することにより引き起こされます.すなわち,放射線耐性向上のためには,この収集電荷量の抑制が必須となります.一方,Si活性層と支持基板が絶縁膜で分離されたSOI (Silicon On Insulator)デバイスでは,

宇宙放射線環境

薄い活性層内で発生した電荷のみが回路に収集されると考えられ,放射線耐性に優れた構造として期待されています.本研究室では,宇宙空間においても地上と同様,集積回路の高機能性・高信頼性を維持することを目的に,主にSOIデバイスを対象として次のような研究に取り組んでいます.

 

1) 埋め込み酸化膜を介した電荷収集の抑制

 SOIデバイスでは薄い活性層のみで放射線により発生した電荷が回路誤動作に寄与していると予想されてきました.しかし,支持基板内で発生した電荷の一部が埋め込み酸化膜を介して収集されることも明らかになっており,放射線耐性向上を妨げています.本研究では重イオン照射誘起電流の測定結果より,支持基板表面に生成される空乏層の存在が収集電荷量増加の原因であることを明らかにしてきました.更に,支持基板への電圧印加や,支持基板の高濃度化により空乏層幅を減少させることにより,SOI-pnダイオードおよびSOI-MOSFETにおいて,埋め込み酸化膜を介した電荷収集を測定限界程度まで抑圧可能であることを実験的に示しました.現在,本手法の集積回路への適用について検討を行い,宇宙空間においても高い信頼性を有する半導体デバイスの開発を目指しています.

 

2) 寄生バイポーラ効果抑制

 SOIデバイスの耐放射線性に関する問題点として,寄生バイポーラ効果が挙げられます.これはSOI-MOSFETのBody領域に発生電荷の一部が蓄積されることにより電位が変化し,寄生バイポーラトランジスタがONになることにより,放射線によって発生した電荷量以上の電荷が回路に収集される現象です.本研究では,更なる耐性強化を目的に

 ・トンネルFET (TFET) 構造の適用

 ・ソース/ドレイン材料としてのSiGeの適用

について検討を行っています.

 TFETのBody領域は,従来構造と異なり電気的な「谷」が存在しないという特徴があり,上記のBody領域における電荷蓄積および電位変化の抑圧が期待できます.また,SiGeはSiよりもバンドギャップが狭い材料であり,Body領域の電位が変化しても寄生バイポーラ効果を抑制できることが期待されます.各デバイスに対する放射線照射効果をデバイスシミュレーションにより評価した結果,いずれの構造においても過渡電流の振幅および継続時間が抑制可能であることを確認しております.現在,各種回路に適用した際の照射効果について検討を行っています.

従来型MOSFETとトンネルFETの

エネルギーバンド図の違い